戦国東都実況体験記③「実況は資料作りが一番大切」石原綾(明治大学)

 スポーツが好きだ。2011年、澤穂希の土壇場のゴールから優勝したなでしこジャパン。南アフリカ相手に番狂わせを起こしたラグビー日本代表。2009年のWBCでのイチローの決勝打。競技関係なく、その『名場面』は私の心に深く刻み込まれている。その『名場面』に必ずあるのがアナウンサーの実況だ。その言葉で一瞬の感動の瞬間に花を添える、そんな“魔法”のような技に魅せられて、私は今回の東都大学野球の実況に手を挙げた。

 実況は資料作りが一番大切だ。試合当日に話す時間は2,3時間だが、準備や資料作りにかかる時間はその何倍にも及ぶ。「これで準備万端」と思って試合に臨んでも、事前に準備した情報を話せるのは10分の1あればいい方だ。毎試合毎試合終わるたびに、悔しさに苛まされている。負けたチームの選手が悔しがるのと同様、スタジアムの前でため息をつきながら歩いている人間がいたら、それは恐らく私であろう。癖になるのだ。毎回反省点を出し、そこを練習して次の試合に臨む。前回悔しい思いをしたことができて嬉しくなる一方で、また課題が見つかる。そんな『完成がない役目』だからこそ、私の中に秘めている挑戦心がくすぶられるのだ。


 東都野球実況初日。舞台は神宮球場。昨日までヤクルトvs阪神の試合が行われ、プロのアナウンサーが実況をしていた、まさにプロ野球の聖地だ。そんな場所で実況をさせていただけると思うと、幸福感が身体中を巡った。

実況ブースが並ぶ廊下にフジテレビ、NHK、ニッポン放送、名だたる放送局の放送ブースが並んでおり、立った瞬間は思わず武者震いした。

 ヘッドセットを付けて、実況開始。自分の声が放送にのっていることが未だに信じられなかったが、選手1人1人の個性、打席、今期で引退する4年生達の想い、とにかく伝えられることを全力で伝えていく。1試合を長いのではないかと感じていた予想とは違い、気が付いたら9回の裏を終えていた。実況に苦しみつつ、試合を楽しみ、そんな東都野球初実況となった。

 学生スポーツの中には、東都野球をはじめ、プロスポーツとは違った魅力があると感じている。選手の中には、卒業後プロスポーツに進む人もいれば、社会人のチームに所属する人もいる。はたまた、会社に就職しスポーツを職業としない人もいる。それぞれの違った想いがプレーに現れ、その想いを知って観戦すると、より面白くなる。同じ講義を受けている大学生の一員として、これから社会に出る進路を考える若者の立場として。1本のヒット、がむしゃらにボールに飛びつく姿、ここぞという場面で自分の仕事をやってのける選手、その1つ1つから伝わるメッセージは、心を揺り動かされる。これは大学スポーツだけに限らず、パラスポーツや社会人スポーツにも共通して言える魅力である。これからも実況として、プレーだけでなく、その想いも届けていきたい。そして、大学スポーツからアナウンサーとして活躍し、今回実況にあたり講習していただいたフリーアナウンサーの田中大貴さんの想いに答え、大学スポーツを大学生の立場から盛り上げていきたい。

石原綾(明治大学)